ボクはテツヤ。誠凛高校バスケットボール部の一年生です。
趣味は人間観察。好きなものは、もちろん、バスケ!
一年だけど、ちゃんとユニフォームも貰っているんですよ。えへん。
ボクは誠凛高校バスケ部のみんなが好きだけど、そのなかでもいっとう大好きなのが、同じく一年生の火神大我くんです。
火神くんは背が高くて、真っ赤な髪で、一見怖い人。でも、イヌが怖いなんて意外とかわいいところもあります。
それから、一人暮らしで料理が上手。頭のほうはおせじにも良いとは言えないけれど、前向きで、ひたむきで、熱い性格。ボクのことを「スキじゃない」って悪態つくくせに、二人のときにはボクのことを気にしてくれる、やさしい人です。
ボクが何考えてるのかわからないって火神くんはよく言うけれど、火神くんはじっと見つめればいつだってボクが何を言おうとしているのかわかってくれる。
少し喉が乾いたときや、お腹がすいたとき、もっともっとバスケがしたいとき、甘えたいとき、火神くんと別れるのが寂しいとき。火神くんは、いつも、ボクの目をじっと見て「仕方ねえな」って頭を掻いて、ほら行くぞって言ってくれます。
だから、ボクは火神くんが大好き。
火神くんを見てると、胸の奥のところがあったかくなって、ポカポカして、子どもっぽく擦り寄って大好きだって表現したくなります。
それから、ボクの宝物や、綺麗な景色や、楽しいこと、なんだって火神くんに伝えたくなります。
たぶん、ボクは火神くんに恋をしている。
火神くんに飛びついて、ぎゅうっと抱きしめて、たくさんたくさんキスしたい。あのかわいいほっぺたを舐めたら、どんな味がするのか確かめてみたい。火神くんが嫌がるから、もちろんがまんするけれど。
ボクが火神くんを好きな気持ちは毎日毎日どんどん大きくなっていきます。
でも、ボクの恋が実ることはありません。
だって火神くんには、大切な人がいるから。
白い肌に、薄い色の髪、火神くんよりずっと小さいボクなんかよりも、よっぽど火神くんの隣が似合う人。
ボクはみんなが好きだから、もちろんあの人のことも大好き。
伸ばせば火神くんにやさしく握ってもらえる手や、愛しそうにキスの落とされるまるい頬を羨ましく思ったことも、もちろん何度もあります。
嫉妬だってします。
だけど、みんなが帰ったあとのロッカールームで、ぎゅうぎゅう抱き合っているあの人と火神くんを見つけてしまったとき、しい、とボクを見て指を立てたあの人の目が、あんまりとろとろに幸せそうだったから。
あの人が火神くんを大好きで大好きで仕方なくて、へんになっちゃいそうなくらい焦がれていることを、ボクは知ってるから、仕方ないなあ、と思ってしまうんです。
「二号」
あの人が、テツヤくんがないしょ話をするみたいに、ボクを呼びます。
「二号はほんとうに火神くんが好きなんですね」
わかるんですか?
テツヤくんには「わんっ」としか聞こえていないはずなのに、まるでボクの言っていることがわかっているみたいに返事をします。
「わかりますよ。二号は、ボクによく似ていますから。火神くんのこと、好きにならないわけないですよね」
テツヤくん…。
テツヤくんの目には、火神くんが好きで好きでたまらないと書いてあります。ボクにはわかるんです。テツヤくんの目の火神くんへの恋が、あんまり綺麗な色をしているから、ボクは思わず見とれてしまいました。
「でも、火神くんにこんなこと聞かれたら恥ずかしいですから。ひみつですよ」
テツヤくんの手が、やさしくボクの頭を撫でてくれます。
テツヤくんはいつも、あまくてやさしい、ミルクみたいなにおいがします。それこそ、思わず舐めたくなっちゃうような。たぶん火神くんも、このおいしそうなあまいにおいが大好きで、たまらなくて、テツヤくんをぎゅうっとしちゃうんだろうなあ。
ちょっぴり寂しいけれど、でも、火神くんがたまらなくなっちゃうのもよくわかる。
テツヤくんのかたい指がボクの頬や耳をくすぐるみたいに撫でるのがすごく気持ちよくって、ボクはお礼にテツヤくんの指をぺろっと舐めました。
ボクの恋が実ることはありません。
でも、ボクはそれでも構いません。
だって、ボクは火神くんも、火神くんの大切なテツヤくんも、同じくらい大好きだから。
▼ (13.7.2)