――それではここで少し趣旨を変えて、真壁さんに好みの女性のタイプを聞いてみたいと思います。
真壁 そうですね……髪は長いほうがいいです。身長も高めがいいかな。服装も、カジュアルより、きちんとした格好が似合う人が好きです。
――真壁さんは運動がとてもお得意ですが、ご一緒にスポーツデートなんかはいかがですか?
真壁 うーん……俺も趣味で運動するほうじゃないし、そういうのは別にいいかな。ふたりでゆっくり家で過ごす方が。俺が昼飯作ってる間、のんびり読書とかしててほしいですね。
――なるほど。内面的にはどんな方が?
真壁 自分の意見をしっかりもっている人です。俺以外に大切なものがあるくらいがちょうどいい。いつもニコニコしてくれなくていいから、信念があって自立した人がいいですね。あ、でも、しっかりものなんだけど、たまーにちょっと抜けてるところがあって、そういうのを俺だけに見せてくれるとかわいくてぐっときます(笑)
――ありがとうございます。なんだか実在する方なんじゃないかというくらい具体的な理想のタイプでしたね(笑)
真壁 あはは(笑)

「…………」
 オフの日の自宅にて、出版社から送られてきた、先月インタビューを受けた女性誌の該当特集ページを読み終えて、一騎は雑誌をぱたんと閉じる。
 うーん、ちょっとしゃべりすぎた、かもしれない。
 何度も一緒に仕事をしている雑誌の、いつものスナップ撮影と今度出演する新ドラマに絡めた簡単なインタビュー、と聞いていたが、取材の数日前に知らされたインタビュー項目を見るなり、一騎は柄にもなくうんうん考え込むはめになった。
 いわく、「好みの女性のタイプについて」。アイドルとしてもちろん受けたことがある質問だったが、いままではいつも総士が一緒で、彼がそつなく当たり障りのないことを答える横で一騎は「あんまり考えたことありません、恋愛とかよくわからなくて」と言うだけで切り抜けてきた。
 事実、一騎には「好みのタイプ」など存在しない。「どんな女性が好きか」なんて考えたこともなかったし、そもそも自分が女性を好きになる人間なのかどうかもわからない。好みの……と言われても、誰かに対して容姿や性格や仕草に「いいな」と思ったことすらない。
 しかしいままでと同じ手を使おうにも、前回「好みのタイプは?」の質問をバラエティで受けたあと、収録後に総士から「そろそろお前もはぐらかしていないでまじめに答えろ」ときつくお叱りを受けてしまっていた。おまけに今度のドラマでの一騎は「主役の女性に長年片思いをしており、報われないながらも一途に想いつづける幼なじみ」という役どころだ。そんなドラマに絡めたインタビューで「恋愛とかよくわかりません」などと言おうものなら、自分のものはもちろん、一応一騎の載った雑誌までかならずチェックをしてくれている総士から、ものすごく叱られることは目に見えていた。
 えっと……好みのタイプ、ってことは、俺が好きな人、ってことだよな。好きな人。好きな人。や、……やさしい人? とか? でもあんまりはっきりやさしくされるのも、なんか得意じゃないんだよな。俺のこと叱ったり指示したりしてくれるけど、ほんとうはやさしい人。かな。あとは……よく聞くのは、愛嬌がある人、だけど、俺は、そんなに。それよりちゃんといろいろ考えてて、譲れないものがある人のほうがいい。あ、でもこれって、好みのタイプってことになるのか? なんなんだ、好み、好みのタイプ……。
 自分の「好みのタイプ」とやらについて、いよいよまじめに考えなければ、と柄にもなくうんうん考えこみ、見当もつかずに、ちょっと頭が痛くなってきたころ、煮え立った一騎の頭にひとつの天啓が下った。
 俺、そういえば、あのドラマの収録のときには、なに考えてたんだっけ?
 演じる役柄の性格、生まれ、育ち、職業、好み、さまざまなものをインプットして論理で考えて役を解釈するのが総士ならば、一騎はまさに没入型だ。演技をするときに「考えた」ことはない。そんな自分が「人生で惚れていない時間の方が短いほど想い続けている幼なじみ」と接する男を演じるとき、一体なにを「感じて」いたのだったか。
 ……じっくり思い出してみると、そういえば、あのときは「総士のこと」を思いながら撮影に臨んでいたんだった。
 そもそも自分に恋愛に生きる役なんて無理だと、オファーがあった時点で一度断ったドラマだったが、詳しく聞いた主役の女性の容姿や性格が、なんとなく総士に似ていて、絆されて引き受けた仕事だった。撮影中もうまく役に入り込めないときは、「これが総士だったら」と乗り切ったはずだ。
 てことは、「好みのタイプ」も総士のことを答えればいいんじゃないか? 好みって、好きってことだよな。俺、総士のこと好きだし、嘘は言ってないし。インタビューのように自分のことを話す仕事はどうにも苦手だが、総士のことならいくらでも言葉が出てくる気がする。なんとなく、道が見つかった気がした。

 決定的なのは、出演が決まった初舞台の顔合わせから帰ってきた総士の一言だった。
「あのさ、今度単独インタビューがあるんだけど」
 事務所で待ち合わせていつものスーパーに寄りながらそう切り出した一騎に、新しい歯磨き粉の味を選んでいた総士は、ああ、とうなずいた。
「それが、好みのタイプを教えてくれって……そんなの考えたこともないし。どうしよう。総士、いつもああいうのに答えるときどうしてるんだ?」
 「好きなタイプ」を聞かれた総士のいつもの回答といえば、「生活力のある人」「運動はできるほう」「笑顔がかわいい人」あたりだろうか。総士だって一騎と同じように恋愛にさして興味があるようには思えないが、そういった「好みのタイプ」をはたしてどうやってひねり出しているのか、興味があった。
「……実体験だな」
「え?」
「いや、なんでもない。お前は……まあ、僕のことでも答えておけばいいんじゃないか。好きだろう」
「好きだ」
「ならそうしろ」
 うん、と返事をして、総士のお墨付きをもらった一騎はすっかり安心しきって明日のカレーに入れるメインの具材を選ぶことに真剣になり、そりきり具体的な「好きなタイプをどうはぐらかして答えるか」ということには、インタビュー当日まで思い至ることもなかった。

 そのせいか。ちょっと当日は具体的にしゃべりすぎてしまったかもしれない。改めて冷静になって読んでみると、これでは、まるで「具体的に好きな人がいます」というのがバレバレなんじゃないだろうか。
 ほんとうならもっと抽象的なことを言っておくべきだったのに、誰にもわからないように総士の好きなところの話をする、というのがなんだか楽しくて、言うつもりもなかった総士のかわいいところまでしゃべってしまった。
……総士、これ読んだら怒るかな。まあでも、総士のことしゃべればいいってあいつも言ってたし。総士がいいって言ったことやっただけだから、俺は悪くない。悪くない。
 そう結論づけてのんきに今晩の献立を考えはじめた一騎は、総士がくだんの雑誌を買いに立ち寄った本屋にて、たまたま立ち読みをしていたファンの「これ、この一騎の好みのタイプ、絶対総士のことじゃん!」という会話を聞いてしまったことなど、もちろん知るよしもないのだった。


▼ いままでにアイドルの一騎が雑誌やテレビで聞かれた「好みのタイプ」像「髪は長いほう」「インドア派」「自分の意見をしっかりもっている人」「背が高い」「しっかりものなんだけどちょっと抜けてるところがあるとかわいい」「俺以外に大切なものがある人」「服装はかちっとした感じ」「ぶっきらぼうなくらいがちょうどいい」を一騎が導きだした手順として
①一騎が自分で勝手に「好みの…好きな人ってことだよな?じゃあ総士のこと言っておこう」と解釈した
②本気で「どんな人がタイプか」をじっくり考えた結果おのずと総士になった
③「好みとか考えたことないし…どうしよう」と総士に相談すると「僕のことでも答えておけばいい。好きだろう」と言われた
のいずれか?とアンケートで遊んでもらった結果でした(2018.11.26)