(もうどうにでもしてくれ…)
 たびかさなる疲労、心労、加えてこのうだるような暑さに完璧にノックアウトされた俺は最早トドメを待つだけのハルヒの従順な人形と化していた。一体またどういう手を使ったのかは知らんが、本来ならば体調不良を訴える生徒たちが集うべき場所であろう保健室はSOS団の期待赤丸急上昇中(とハルヒ超監督が豪語する)新作映画の撮影場所へと変貌を遂げている。清潔感あふれる白いベッドに仰向けに寝転んだ俺の上には何故だか頬を染めて苦笑したハルヒ専用イエスマン、古泉。こらお前、顔を赤くするんじゃない。何だそれは恥じらいのポーズか、そういう態度をとって可愛いのは朝比奈さんか長門か百歩譲ってハルヒ辺りまでだ、お前は含まれていない。だがまあ現在責めるべきなのはハルヒ超監督であって、こいつはあくまでハルヒの意思に唯々諾々と従っていただけだ。そもそもハルヒの言うことなすことに肯定をプレゼントしてやるのもどうかと思うが、こういう状況に流されてしまったという点においてはこいつも俺と同じく被害者であることに変わりはないので一応殴るのは勘弁してやることにする。
 何が悲しくて古泉なんかとベッドインしなけりゃならんのか、俺の初体験のときめきを返せ。たとえ撮影の為だなんだと言われても、こんな状態じゃあ俺は保健室へ来るたびに古泉の頬を染めたにやけ面を思い出さなければならないだろう。そもそも何故またハルヒの奴がくだらん映画なんぞを撮ろうと思い立ったのか、そこに至るまでに既に俺は結構な精神的苦痛を味わわされるはめになっていた。順序よく事の経過を追うためには、まずハルヒが何を思ってこんな悪趣味な画(え)を撮ろうなどというろくでもないことを思いついたか、そのあたりの経緯を語らなければならないだろう。

 まず事の発端はやはりハルヒであった。厳密に言えばそれはハルヒでありながらハルヒではなく、というよりもハルヒの後ろに見え隠れする一部の特殊な嗜好を持つ女子の陰謀というかなんというか、つまりはハルヒにあんないかがわしい漫画を与えて暴走の原因を作った世間一般的には腐女子と称される彼女らである。
 ああ、あれも暑い日のことだった。掃除当番だった俺が部室へ到着する頃には勿論長門も朝比奈さんもハルヒも揃っていて、その場に居ないのは同じく掃除当番であるらしい古泉のみとなっていた。今思えばあいつはなんてタイミングの悪いやつなんだと思う、来るならもっと早く来ていればよかったし、もしくはもっと遅くにひょっこり顔でも出せば良かったのだ。俺一人でハルヒの暴走を止められた自信もないのだが、古泉が居たところでどうせ反対意見なんぞ言うわけもないから、ハルヒを説得して断念させるという行動においては大した価値もなかっただろうし。
 ハルヒは真剣な顔でうすっぺらい雑誌らしきものを一心不乱に読んでいた。電源が入ったまま稼動される予定もなさそうなパソコンのモニタに隠れて内容も表紙も見えなかったのだが、結論から言えばあれが諸悪の根源と言ってもいいようなブツであったわけだからあの時あれをハルヒから奪い取って破って燃やしてしまえばよかったのだろう。だが俺は珍しくもハルヒが大人しく一般的な女子高生の読むような雑誌やらカタログやらを読んでいるのだろうと勝手に納得し、朝比奈さんの愛らしいメイド姿と熱いお茶に精神の安定を図り、そしていつもと変わらない様子で規則的にページをめくり続ける長戸を見て安心してしまっていた。まさかハルヒがあんなことを言い出すとは微塵も考えずに。

「決めたわ!」
 唐突に、無慈悲に、かつ希望をあふれさせたきらきらしたまなざしと声でハルヒが叫んだ。既に何度もそんな状態のハルヒを見たことがあり、しかもハルヒがそうなるたびに絶対と言ってもいいほど苦労と疲労を強制イベントで経験値メーター三本分くらい押しつけられている俺は、理性が拒否を叫んでも客観的位置ならびに本能が命ずるままにいつものごとく溜息を吐きながらハルヒに問いかけた。
「何をだ」
 そもそも俺が訊かなけりゃあ誰も訊かないんだから仕方がない。朝比奈さんはきょとんとしてハルヒを見ているし長門は何事もなかったかのように本を読んでいるし、此処に居ればもしかしたら同じことを訊いたかもしれない古泉はハルヒに対してイエス以外の返答を返したことがない。つまり必然的に俺が訊かなければならない位置にいるわけで、もっと根本的なことを言えば、俺はまあ、世間一般的に言われるツッコミ属性なわけだ。だからこそだろう、俺が未だにSOS団の良心に甘んじているのは。SOS団にハナから公正な勝利基準などあるわけもなく、此処ではボケたもん勝ちなのである。敢えて勝ちにいかずいつまで経っても敗北を許しているのは俺の深層心理がボケることを拒否するからなのかもしれない。
 いや、そんなことはどうだっていい。どうでもよくないのはハルヒだ。ハルヒは何を決めたんだ、と早くも疲労気味に問いかけた俺をにやあと嫌な笑みで見て、そしてそれまで大人しく黙読していた薄っぺらい本を投げつけた。
 何が書いてあったと思う。
 いやいい、言わなくていい。そして俺にも言わせないでくれ。前述した事の発端の意味をちらりとでも知っている人間ならば、それが何という名称の何を記述したものであるかを説明することが躊躇われるということも、そして生物学上でも自己認識でも周囲の客観的な目で見ても男である俺に一体どれくらいのダメージを与えたかということも解ってくれるはずだ。頼むから解ってくれ。いや本当。

 それはまあ、未だにその意味を知らない純粋な少女だか少年だかに説明するのならば、男同士の色恋沙汰を描いた個人的に楽しむべき危険物だった、とでも言うべきであろう。いや、俺だってそういう趣味を持つ人間を差別することはしない。しない、が、ハルヒにそれを与えたという事実においては俺に殴られる正当な理由と怨まれる為の条件を十分に満たしていると思わないか? この世の変わったことになら骨を与えられた空腹の犬のように食いつくハルヒにそんなものを与えるなんて、一部を除いた全世界の男を敵に回すようなものだ。勿論俺も含まれている。
 だが事態がより悪くなるのはここからだった。投げつけられた本の正体をまだ知らなかった俺は慌ててそれを受け止めて、ハルヒに物を投げるなと注意してから勢いで開いたページに描かれてあった男と男がほにゃららしている漫画の一ページを見つけ、びしりと音でもしそうな動作で固まった。恐る恐るそれを閉じ、表紙に印刷されたさらにいかがわしい絵を見て「うおおう!!!!!」とよくわからない悲鳴を上げながら先ほどハルヒに注意したにもかかわらず(だがこの時俺がこうしてしまったことは何人たりとも責めることなどできないだろう)条件反射でそれを勢いよく放り投げ―――そして、タイミングの悪いボードゲームの神様に見放された超能力少年、古泉の登場、となるわけである。

 この時点で既に俺のヒットポイントもマジックポイントもほぼゼロに近い状態となっていたのだが、ハルヒは更に追い討ちをかけるようなことを嬉々として叫んだ。
「これをキョンと古泉くんにやってもらうわ!」
 事の中心に居ながらもいろんな意味で危機にさらされている俺と状況をまったくわかっていない古泉を無視して、ハルヒはそのテンションのまま一気にまくし立てた。そしてそれをSOS団の新作映画として発表すること、DVDに焼いて売りさばけばSOS団の名もこの近隣だけでなく知れ渡り、何かしらの不思議な現象が起きるであろうという無根拠な理不尽極まりないことだけを告げると、あとはもう何も言うことなどないという顔で、瀕死の危機から脱したにも関わらず再びハルヒの発言によって沈められた俺と扉を開けた格好のまま笑顔で頭上にクエスチョンマークを浮かべた古泉を交互に見比べ、また一人勝手に満足げな顔で笑ったのだった。

 さてそこで問題だ、何故今俺はこんな状態になっているんだと思う? 答えは簡単だ、ハルヒはどうやらその本に描いてあるあれやこれやを俺と古泉で再現して映画を撮ろうと考えているらしく、そしてそこに保健室のベッドで絡み合う(と自分で言うのも鳥肌モノだが)シーンがあったからだ。幸か不幸か漫画だったその本の問題のページを睨み付け、だが流石に本気で俺と古泉にどうこうさせるつもりはないらしいハルヒは「とりあえず、それっぽい感じでやってみて」とアバウトすぎる指示を下したあと、女性陣に囲まれながら狭いベッドの上でのベッドシーンというかなり笑えない状況にある俺たちを真剣なまなざしで漫画と見比べながらカメラをまわしている。よくもまあこんなものをそんなに真剣に撮れるものだ、俺だったらビデオカメラの電源を入れる前にホールドアップしながらプライドも捨てて勘弁してくれと懇願するだろう。まったく、そんな立場だったらどんなによかったことか、もう古泉の恥じらったような顔は見たくない。それでもさっきの頬を赤らめるなという言葉は取り消しておく。やっぱりお前は笑ってろ 、この状態で下手に真面目な顔でもされたら洒落にならない。
 はじめの内は大人しくカメラマン兼演出兼監督を務めていたハルヒも、五分くらい前から同じ体勢のまま固まっている俺たちにとうとうしびれをきらしたのか飽きたのか(この場合一応オアの形をとっているものの、真実は確実に後者である。無駄に選択肢を増やしたのはハルヒの名誉と俺たちの五分間のため、ということにしておく)カメラの電源を落とし不満げに叫んだ。
「ちょっと! 二人共やる気あるの!?」
 すまん、ない。
「はあ!? 何言ってるのよ、馬っ鹿じゃないの! ここはベッドシーンなのよ、一番の見せ場なのよ! 古泉くんもガーッとやっちゃいなさい!」
「とのことです」
 おいその笑顔のままネクタイをほどくなボタンを外すな脱がせるな! 胸をまさぐるんじゃない気持ち悪い!!
「しかしそういう演技ですので…あなたにも協力していただきたいのですが」
 俺はたとえ演技でも男に触られて喘ぐだなんて絶対に御免だからな。そもそもお前は前に映画(とも言えないようなつまりは朝比奈さんのPV)を撮ったときに表舞台に立つよりも裏方に徹する方がいいとか言ってなかったか? 今がそのチャンスだぞ、いやむしろその役割を俺に渡せ。そしてお前は会長とでもベッドインしてろ。ていうかなんでそんなに楽しそうなんだ。
「まさか、楽しいそうだなんてとんだ誤解ですよ。それにあの人とカップルの演技なんてするくらいなら舌を噛みきって死にます」
 …えらい嫌われようだな、あの人も。お前そんなに会長が嫌いだったか?
 俺たちがそんな言い合いをしている間にもとうとうハルヒは我慢の限界に達したようで、再び口を開こうとした俺を指差して叫んだ。こら、人を指差すもんじゃないぞ。
「もう、キョンじゃ話にならないわ! 交代よ交代、古泉くんと交代しなさい!」





 ちょっと待てハルヒ、俺には男に喘がされる趣味などないが男を喘がせる趣味もないぞ。
「あんたの趣味なんかきいてないの! 受けの演技ができないって言うのなら攻めるしかないじゃない」
 ハルヒは中二病の弟に数学がなんという用途でどんなとき役に立ってくれるのかを説く高二病の姉みたいな顔で言い、ぼそりと「皆は古キョンがいいって言ってたけどこの際仕方ないわ、リバよ、リバ」とよくわからないことを呟いた。そこで何故俺の名前を出すんだ、嫌な予感がしたが訊けば余計に後悔することは目に見えていたので口には出さない。だが受けとか攻めとか言うのはやめろ。
 俺の訴えなど聞く気もないのだろうが、まあしかしハルヒ、俺の上から古泉を退かせたことには感謝する。重量の消えた上体を起こしてベッドから降りると、背後でぼふりと濁った音がして振り向けば古泉が困惑した顔をして俺の代わりにベッドに沈んでいた。
「さあキョン! 古泉くんをガンガン攻めるのよ!」
 ……ちょっと待て。交代ってそういうことか、リバってそういうことか!! 大体触れられることにすら嫌悪感を抱くというのに自分から触れるだなんてとんでもない、そんな精神的自殺行為は勘弁だ!
「受けができないって言ったのはキョンでしょ、ならあんたが攻めなさい」
 なんだそのコペルニクス的転換は、あの本はそんなに自由な本だったのか? 既に何シーンかは撮影してしまっているというのに今更そんな大前提とも言うべき部分を軽々しく変えてもいいのか?
「いいのよ、まだ確信的なシーン撮ったわけじゃないんだから。そういう意外性とかギャップも重要な萌え要素のうちのひとつなの!」
 でもお前何人かにはもう話してるんだろ、内容。
「そんなの気にすることないわ! 話が違うって言われたらリバカプだからって言っときゃあいいのよ!」
 …そんなもんなのか。そんなもんなのだろうか。ハルヒは俺を無理やりベッドに押し込め、仕方なく再びベッド上へと戻った俺の下では古泉がこんな状況になってもまだ苦笑を突き通していた。余裕ともとれるその表情にむっとする。いや、ここで恥ずかしがられても困るんだがな。
「お前は抵抗ないのか」
「これといっては」
 …ああそうだな、お前はハルヒのイエスマンなんだったな! たとえ心の中でどんな放送禁止用語で俺を罵っていようともハルヒの居る前ではそんな素振りは微塵も見せないだろう。もっともこいつは本気でこの状況を楽しんでいるようだが……成る程いい度胸だ、俺がこんな目にあっているのにお前だけが楽しむだなんて不公平も甚だしい。お前がそういうつもりなら俺は何の遠慮もなく「攻め」させてもらうからな!
「ええどうぞ、楽しみにしていますよ」
 何を楽しみにしているつもりだ! 気持ち悪いことを言うな、お前が言うと洒落にならないんだよ。しかもベッドの上でだなんてな!

 しかしそう意気込んでみたところで俺は所詮童貞である。そもそも本来こういう関係にあるべき女の子との経験もないのだから、男同士でのやり方だなんて知っているはずもない。いや、別にそこまで丁寧にする理由もつもりもないが、何をしていいのかわからないなんてことをこいつの前で言うことだけはどうしても躊躇われるのは何故なんだろうな?
「どうしました?」
「どうもせん!」
 余裕げな笑顔を見せ付けられてさらに苛立ちが募る。ああお前はいいだろうよ、される側だからな。ついさっきまでは俺もその立場だったさ。今となってはどんなに楽な立場だったかよくわかる、なんたって相手の出方を待つだけだ。胸を触られるのは勘弁だが。あと自分の上に跨られているというのも征服されたみたいでなんか嫌だ。
 とりあえず先ほど古泉がしていたみたいにボタンを外して肌蹴させてみると(ネクタイはもう随分前に外してしまっていた)、顔や腕なんかと同じくらい白い首筋が露(あらわ)になった。なんだ、いつもシャツを第一ボタンまできっちり締めている所為で露出していない部分だからもっと白いのかと思ってたが…いや、それともこいつが全体的に白いのだろうか。恐る恐る首筋を撫でる。
「んっ…」
 古泉のもらした声が想像していた以上に高く甘やかで、思わず驚いて手を止めると潤んだ瞳が見上げてきた。おいこら、そんな目で見つめるな頬を赤らめるな! 変な気分になってくる、……いやだからそうじゃないだろ、俺!
 これは演技なんだ、撮影なんだと自分に言い聞かせて(言い聞かせないとなんとも妙な気分になってくるのが情けないことこの上ない)止めた手を再び動かす。さらさらした触り心地の良い肌をくすぐるように撫でるたび、古泉の女の子みたいに赤い唇が女の子みたいな高い声を紡ぎだして、それにまた煽られるように掌を下の方へ下げかけた俺をハルヒの声が現実に引き戻した。
「うん良いわ、そんな感じよ! じゃあもっと雰囲気出すためにキスとかしてみて!」
「キス!?」
 そうよキスよと無責任に笑ったハルヒへの不満苛立ちその他諸々を上手く纏めた抵抗文を無い頭を絞って考えるも、生憎良い書き出しが見つかる前に、ハルヒがまた何人たりとも反論は許さないという剣呑な色が見え隠れする瞳で睨んできたので俺はハルヒ超監督の前に再び頭を下げることとなった。
「だがハルヒ、せめて口は止めてくれ。人生初のキスが同性だなんて悲しすぎる」
 ちなみにあの出鱈目な閉鎖空間での出来事は夢だったと思い込むことにしているのでノーカウントだ。
「そうねえ、…あんたならまだしも、古泉くんの唇があんたみたいな奴に奪われちゃったら苦情を寄せてくる女の子も居るかもしれないわね」
 悪かったな俺の唇を惜しんでくれる女の子が居なくて。
 真っ赤になってあわあわしている朝比奈さん(だけど目線はしっかり俺と古泉を捕らえている)といつものことながら無表情で突っ立っている長門(心なしかその目に好奇心の色がちらついているのは気の所為だと思いたい)を左右にはべらせて、仕方なく妥協してあげるんだからねという空気をいやというくらい滲ませてハルヒは「じゃあ胸とかで許してあげるわ」と言った。……ちょっと待て、それ全然妥協してないだろ! おい古泉、お前も期待したようなきらきらした目で見るな気持ち悪い! ちょ、朝比奈さんも赤くならないで止めてください!
 長い長いすったもんだの末、結局必死の願いはなんとか聞き入れられ、俺の唇の貞操は古泉の頬に奪われることになった。ちなみに長門は「……期待している。頑張って」といまいち励ましになっていないような励ましをくれただけだった。なあ長門、期待しているって、何にだ?

 その後もしばらく撮影は続き、そろそろ俺が精神的苦痛を理由に登校拒否でも始めようかと考え出した頃SOS団第二作目映画は無事クランクアップを終え(どこらへんが無事だったかというと勿論俺の貞操の話である。残念ながら俺のメンタルケアは誰も引き受けてくれなかった。あ、古泉が名乗り出たがあいつはこちらから願い下げだ。あんなことをさせられた後なんだから朝比奈さんとかせめて長門に慰められたい)、今にも泣き出さんばかりの勢いで公開だけは止めてくれと頼み込んだ俺を哀れに思ったのか自分でもこれはイタイと理解したのか、恐らくそのどちらでもないただの気紛れであろうハルヒは、完成した映画をDVDに焼いて一部口コミで広がった女子にだけ売りつけるに思いとどまってくれた。前作朝比奈ミクルの冒険と比べると、今回俺と古泉が出演させられた「古泉イツキの秘め事」はかなりのアブノーマルさにも関わらず、使い古された陳腐なものではあったが何故かきちんとストーリー構成がなされていたことが最大の謎であろう。なんたる皮肉だ。
 ハルヒがDVDを売りつけた女子たちにもそこそこの評判だったらしい。一体誰に売ったのかなんて考えたくもないのだが、今の俺にはこれで調子に乗ったハルヒが「やっぱり全校に放送すべきよ!」なんて言い出さないように見張っておくという使命があるのでもう気にしないことにしておく。あんなものを放送されたら俺は生きていけない。

 ……ちなみに。撮影後俺と古泉の関係がどうなったか、ということについても、ここでは言及しないことにしておく。ただ言えるのは、まるでこの撮影がお試し期間であったかのような関係に、何故かいつのまにかなってしまっていた…ということだ。深く考えないことをお勧めするが、な。