「友くん、今日ダンスのレッスンでほめられてたんですよ」
 と、私に友也くんの情報を教えてくれたのは、ひなたくんでした。
 パフィー・バニーでのレッスンの休憩中。つい今のいままで熱気球についてのトークが盛り上がっていたというのに、私はなぜひなたくんが「そういえば」と友也くんのお話をし出したのか、よくわかりませんでした。
 よくわからないなりに、友也くんが学院の授業でもがんばっているらしいーーこの日々樹渉の髪の毛の先っぽを掴めるくらいにでっかい男になってもらうのですから、それくらい当然のことなのですがーーということを聞いて、もちろん悪い気持ちにはなりません。
「おやあ、そうなんですね」
 と言いながら仕込んでいたバラと一緒にきょうはうさぎさん型の砂糖菓子を振りまくと、レッスン室に心地よい歓声があがったのでした。
 かと思えば、またあくる日。自室に帰ってきた宙くんが、おかえりなさいと出迎えた私を見るなり、
「大ししょ〜、友也ちゃん、きょうはなんだか元気がなかったです。宙、はげましたけど、ダメだったな〜」
 としょんぼりした顔で言うのです。
 それは北斗くんのソロイベントの先行抽選に外れたからで、北斗くんが関係者席にでも誘ってやれば今に見違えるように元気になりますよ、と宙くんに言うと、宙くんはどうやら元気を取り戻したようでした。
「それはよかったな〜! やっぱり、友也ちゃんのことは、大ししょ〜なんでも知っててすごいです」
 それはちがいます。日々樹渉はたしかに天才ですが、なんでもは知りません。知っていることだけ。
 まして、友也くんなんて、一年間一緒に過ごしたごくごくふつうの子で、これでもかというくらいわかりやすすぎるときもあれば、いったいどうしてそんなことになるのかさっぱりよくわからないことだってあるのですから。
 とはいえ。
 そうなのです。なぜだか最近、私の周りに友也くんの友也くん情報が集まってくるのです。
「というわけなんですよ」
「ふうん?」
 と友也くんは、私がここ最近のふしぎな出来事をこんなに情緒たっぷりにお話ししてあげているというのに、昨日買ってきたばかりの今はまっているまんがの新刊に夢中で、こっちを見てもくれません。
「どうしてみなさん、私に友也くんのお話ばかりするんでしょうねえ」
 私がぶつぶつと考え込んでいると、私の膝をまくらにしてゴロンと共有スペースのソファに寝転びながらまんがを読んでいた友也くんが、そういえば、と単行本を閉じて私を見ました。
「俺も、あんたがレッスン中にこんな芸してきたとか、こんな登場の仕方したとか、そういうのよくひなたに聞くなあ」
 友也くんは思い出し笑いをして、くす、と吹き出します。
「あとは、意外と熱いものが苦手だとか。そうだよなぁ〜って笑ってたらなんでか叱られたんだけど」
 春の陽気がぽかぽかと大きな窓からふりそそいで、ふたりねこのこのようにソファでくっついてぼんやりしていると、なんだかとっても気持ちがよくて、ささいなふしぎなことはどうだって良いような気がしてきます。
 それに、私が近くで見られなくなった友也くんの日常をほかのだれかからでも覗き見できるのは、なんだかお得な気がしますから。
「なんででしょうねぇ」
「なんでだろうなあ」
 私は膝の上のふわふわの友也くんの髪をすきながら、背中を照らす陽光にウトウトと目を閉じるのでした。


おわり

▼ (2022.5.3)